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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11626号 判決

原告 株式会社マネージメントセンター

右代表者代表取締役 小日向信光

右訴訟代理人弁護士 渡辺泰彦

同 小口恭道

被告 南友治

右訴訟代理人弁護士 平田亮

主文

一  被告は原告に対し

1  金一九〇万円及びこれに対する昭和五四年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告が提供する別紙株券目録記載1ないし30及び33ないし35の株券と引換えに金一六五万円を支払え。

3  別紙手形目録記載11ないし22の約束手形を引渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

(申立)

一  原告

主文と同旨

二  被告

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

一  原告の請求原因

1  原告は、経営指導、コンピューターサービス、印刷を業とする会社であり、被告は原告会社の取締役副社長であった者である。

2  被告は、原告会社の株式一万六五〇〇株(一株の額面五〇〇円、所有株式の額面総合計金八二五万円)を所有していたが、昭和五一年一一月末頃、原告会社に対し右株式の買取を要求した。

3  原告会社は、商法第二一〇条に定めるいわゆる自己株式取得禁止についての除外事由がないのに、被告の右要求に応じ、まず別紙株券目録記載の株券と引換えに、被告に対し左記のとおりの金員を支払った。

支払日(昭和年月日) 支払額

(1) 五一、一二、一 五〇万円

(2) 五一、一二、三〇 二五万円

(3) 五二、一、二五 二五万円

(4) 五二、二、二五 二五万円

(5) 五二、三、二五 二五万円

(6) 五二、四、二 一五万円

(7) 五二、四、二五 一〇万円

その後、原告会社は被告より取得した株券のうち、別紙株券目録31、32の株券を第三者に売却した。

4(一)  次いで、原告会社は被告より残りの株式、すなわち、第2項で記載した被告所有の株式一万六五〇〇株(額面合計金八二五万円)より、第3項記載の株券三五〇〇株(額面金一七五万円)を差引いた株式一万三〇〇〇株(額面合計金六五〇万円)の買取りを要求され、昭和五三年一月五日頃、被告の有するこの残りの株式を買取ることにし、その代金の支払のために、別紙手形目録記載の約束手形二二通(額面合計金六五〇万円)を被告に振出し交付した。

(二)  原告会社は被告より、この残りの株券の引渡を受けなかった。

(三)  原告は、被告に交付した前記約束手形のうち、1乃至10の約束手形を決済した。

5  原告会社の右株式の取得行為は商法第二一〇条に違反し無効なものである。

そして、被告は、株式の違法な売渡によって法律上何らの原因なく金三五五万円を利得しているほか、前記約束手形11乃至22を法律上原因なく所持している。

6  よって原告は被告に対し請求の趣旨記載の裁判を求める。

二  被告の認否

1  請求原因1記載の事実は認める。ただし、原告は登記簿上存在するだけで実態のない会社であり、被告が役員をしていたのは昭和五〇年一月から昭和五一年一二月までである。

2  請求原因2記載の事実中被告が株式を所有していたことは認めるが、その余は否認する。被告は原告代表者小日向信光に株式の買取を要求した。

3  請求原因3記載の金員を受領したことは認めるが、原告から支払いを受けたのではない。小日向が原告から金銭を借入れて被告に支払った。その余は不知。

4  請求原因4記載の事実中別紙約束手形目録記載の約束手形を受領し、1ないし10の約束手形金合計一九〇万円の支払いを受けたことは認めるが、小日向が個人借入のため原告から約束手形の振出交付を受け、これを被告に対し株式譲受代金支払のため譲渡したものである。1ないし10の約束手形を決済したのも小日向である。

三  被告の抗弁

仮に原告と被告との間に自己株式の取得があったとしても、原告の主張は権利の濫用である。即ち、原告の役員は原告を倒産させることを計画し、昭和五三年七月六日株式会社エムシー印刷を設立して原告と同種の営業を行い、原告は昭和五四年二月五日取引停止処分を受けて倒産した。そして原告所有の不動産全部を昭和五四年三月二〇日に訴外小林清計に売却してしまい、原告は実態のない会社になった。被告が原告の株主の地位にもどったとしても現実には実態のない会社の株主にしかすぎない。原告は株式会社エムシー印刷を解散させ、事実上原告から引き継いだ営業を原告にもどし、かつ売却した不動産全部を取り戻すなど会社の実態の回復をはかるべきであって、これをせず本訴請求をすることは権利の濫用というべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。被告は株主の地位に復したのちその権利の主張をすれば足り、原告の請求が権利の濫用にあたることはない。

(証拠)《省略》

理由

一  原告は、経営指導、コンピュータサービス、印刷を業とする株式会社であり、被告は原告の取締役副社長であったこと、被告は原告の株式一万六五〇〇株(一株の額面五〇〇円、合計八二五万円)を所有していたが、これを売却(相手方は別として)してうち三五〇〇株の代金として請求原因3記載のとおり合計一七五万円の支払いを受けたこと、うち一万三〇〇〇株の代金として別紙手形目録記載の約束手形二二通(額面合計六五〇万円)の交付を受け、うち1ないし10の約束手形金合計一九〇万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、右株式を買受けたのは原告であると主張するのに対し、被告は、原告代表者小日向信光個人であり、小日向が原告から買受代金を借り受けて被告に支払ったものであると反論するので、検討するに、《証拠省略》によれば、被告は右一万三〇〇〇株の売買に際し、原告に対し「貴社の株式六五〇万円を売渡し代金として約束手形二二通を受領したが、約束手形が決済されるまでの間株券を担保として預かる」旨の書面を差入れていることが認められ、右事実と《証拠省略》を総合すると、本件株式を買取ったのは原告であると認めることができ、反証はない。

三  原告が右株式を取得するについて商法二一〇条の除外事由があったことの主張、立証はないから、右株式の取得は無効である。

被告は仮に自己株式の取得にあたるとしても、原告がこれを主張するのは権利の濫用であると主張するが、《証拠省略》によれば、原告は昭和五四年二月頃倒産し、現在営業活動はしていないこと、本件は債権者に対する清算のために提訴したものであることが認められ、したがって被告が原告の株主の地位に復帰したとしても経済的、社会的に得るところがないことは容易に推認することができるけれども、右事実から直ちに原告が自己株式の取得の無効を主張することが権利の濫用にあたるということはできないし、右倒産が原告の役員による計画的なものであったことを認めるにたりる証拠はない。被告の抗弁は、理由がない。

四  そうすると、被告は原告に対し本件株式の売却により取得した金員及び約束手形を返還する義務、原告は被告に対し交付を受けた株券を返還する義務を負うものというべきところ、原告は右株券のうち別紙株券目録31、32の株券を所持していないことを自認し、これに対応する代金一〇万円については返還を求めていないから、被告は、原告に対し、原告が右株券を除くその余の株券を提供するのと引き換えに一六五万円決済を受けた約束手形金一九〇万円とその最終支払日の翌日である昭和五四年一月一日から支払いずみまで民法所定年五分の利息(弁論の全趣旨により悪意の取得者と認める)、別紙約束手形目録11ないし22の約束手形を引き渡すべきである。

五  よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大城光代)

〈以下省略〉

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